日常百景

 僕の通勤路(自転車です。いくら暑くても自転車、です)はどこかの小学校の通学路と一部重なっているみたいで、ボランティアなのか何なのかよく分からないけど、いつも決まった場所で黄色い旗を持ったじいさんが道行く人に誰彼構わず「お早うございます」と声かけをしてるんですよね。そう言われれば、まあ、「お早うございます」と返すのが道理だからずっとそうしてきたんだけど、やられてばっかりなのも癪だと思うようになって、最近ではこっちから声をかけてやろうと毎日がんばっています。戦績はだいたい五分五分。


 新世界をぶらぶら歩いていると、ふとおっちゃんが声をかけてきました。
「にいちゃん、今何時くらい?」
「そーーですね(と携帯電話を見て)、6時20分くらいです」
「(時間のことにはまったく触れず)なんや、これからメシ食いに行くん?」
「いや、ちょっとぶらーっと買い物でもしてたとこで」
「サウナとか行かへんか」
「…や、雨降りそうなんでさっさと帰りますわー(と、その場を立ち去る)」
「×××××(何か言ったようだが聞き取れず)」
 こうやって書き出すとよう分かるけど、おっちゃん、ナンパするにしてももうちょっと上手くやりや。


 「ウチの方まで送るわ」「いや、あんま遠なったら悪いしこの辺で」といつものようによく分からない攻防を繰り広げたあとで、またいつものようにベンチに腰掛けようとすると、木製のベンチの縁で蝉が今まさに脱皮中なのでした。まだサナギから抜けでて時間がそう経っていないのか、緑っぽくて透明度の高いその蝉は微動だりせず、お互い何をどう感じていたかは分からないけれど、しばらくじっと並んで見守っていました。